「IPO当選後のキャンセル(購入辞退・当選辞退)って何かペナルティとかあるの?」
せっかく当選したIPOでも、資金との兼ね合いで泣く泣くキャンセルしなければならなかったり、「公募割れ(初値が公開価格未満になる事)」のリスクを危惧してキャンセルを検討する事もあるでしょう。
特に後者のケースに該当する人が多いかもしれませんね。
「正直微妙な銘柄だし、最近の情勢だったら買いの動きも鈍そう・・・辞退しちゃおうかな」
そんな時に気になるのがキャンセルした場合のペナルティです。じつは、証券会社の中にはIPOのキャンセルに対してペナルティを課す会社が有るので注意が必要です。
それを知らずにキャンセルしてしまうと・・・今後のIPO投資に支障をきたす可能性が無きにしもあらず!
そこで今回は、IPOのキャンセルに対してペナルティを課す証券会社やペナルティの概要、想定されるリスクなどについてお伝えしていきます。たったの4社ですので、これを機に覚えておきましょう。
逆に言えば、このページで紹介する4社以外は基本ペナルティなしという事も覚えておいてくださいね!
IPO当選後のキャンセル(購入辞退・当選辞退)にペナルティを課す証券会社はこの4社!
さっそくIPO当選後のキャンセルに対してペナルティを課す証券会社を紹介します。それが以下の4社です。
- SMBC日興証券
- 三菱UFJモルガン・スタンレー証券
- 岡三証券
- 東洋証券
もしこれらの証券会社でIPOのキャンセルをする場合は、ペナルティを覚悟しなければなりません。
では、どういったペナルティが課されるのか、それぞれ見ていきましょう。
1社目:SMBC日興証券
SMBC日興証券が課すペナルティは以下の2点です。
- IPO申込不可【1ヶ月間】
- 現在行っているすべてのブックビルディング(需要申告)が取消となる
SMBC日興証券も自社HPにて、具体的なペナルティの内容を明言しています。
Q.当選後のキャンセル(辞退)はできますか、またその期限はいつまでですか。
A.日興イージートレードの募集申し込み期間中に行っていただくことが可能です。ただし、当選を辞退されるとその後のご利用について以下の制限を設けさせていただきますのでご注意ください。
●当選を辞退された場合、翌日よりイージートレードから新たな需要申告のお申込みが出来なくなります。新たな需要申告のお申し込みは、辞退された日の一か月目の応当日翌日から可能です。また、既に他の銘柄で需要申告を行っている場合、すべて無効となりますので予めご了承ください。
●既に行っている需要申告がすべて無効となります(募集申し込み分は取消しされません)。
(引用:SMBC日興証券「FAQ」)
上記の通り「~~制限を設けさせていただきます~~」という断定的な表現で記載されているので、確実にペナルティを受けると考えておいた方が良いでしょう。
ちなみに、SMBC日興証券では「補欠当選」に対してペナルティを課す事はありません。この内容についてもHPに記載されているので以下に紹介しておきます。
Q.補欠申し込みを行わなかったり、補欠申し込みを取り消した場合、1ヶ月間日興イージートレード上から需要申告できなくなるという制限は適用されますか。
A.この場合については需要申告の制限は適用されません。
(引用:SMBC日興証券「FAQ」)
2社目:三菱UFJモルガン・スタンレー証券
三菱UFJモルガン・スタンレー証券が課すペナルティは以下の2点です。
- IPO申込不可【1ヶ月間】
- 現在行っているすべてのIPO申込が取消となる
三菱UFJモルガン・スタンレー証券では、自社HPにて以下のようにペナルティの内容について記載されています。
Q.当選しましたが、購入辞退した場合、または購入手続期間内に手続きをしなかった場合、どうなりますか?
A.購入の権利がなくなり、購入していただくことができません。また、「当初当選」のお客さまが購入辞退した場合、または購入手続期間内に手続きをしなかった場合は、以下の通りサービスを制限することがあります。
●一定期間(2016年9月時点では、発生日より 1 ヶ月間)、抽選申込のサービスメニューが利用できなくなります。
●抽選前の他銘柄へのお申込みを「申込取消」とします(ただし、発生日に当初当選(繰上当選/追加当選)となっている申込みは、「申込取消」になりません。)
(引用:三菱UFJモルガン・スタンレー証券「FAQ」 )
SMBC日興証券と異なるのは「~~サービスを制限する事があります。」という少し弱めの表現で記載されています。ペナルティを受けなくて済む事も有るのか?と受け取れますよね。
この曖昧な表現について問い合わせたところ、「~~制限されます」という断定した表現での回答が返ってきました(回答内容は転載禁止となっているので一部分のみ公開しています)。
そのため、三菱UFJモルガン・スタンレー証券でも当選したIPOをキャンセルしたらペナルティを確実に受けると思っておいた方が良いでしょう。
なお、三菱UFJモルガン・スタンレー証券では、次点(=補欠当選)の人に対しては、繰上抽選時に資金が不足して対象外となったとしても、また購入申込を辞退した(購入手続きを行わなかった)としてもペナルティの対象にはなりません。追加当選の場合も同様です。
次点者等の内容も含めたペナルティの取扱については、インターネットトレードログイン後のページ下部にある「取扱説明書」の「4.取扱商品について P69」に記載されているので、口座開設済の人は確認しておきましょう。
3社目:岡三証券
岡三証券が課すペナルティは以下の1点です。
- オンライントレードからのIPO申込不可【期間不明】
岡三証券についてもHP上で公表されているペナルティの内容について紹介しておきますね。
Q.新規公開株の注文の取消、訂正はできますか?
A.当選した株式の「購入辞退」を受付けます。
当選した株式の、購入申込の辞退をした場合、当選株式数未満の購入申込をした場合、購入申込日に購入手続きが行われない場合、以降の岡三のオンライントレードを利用したお申込を受付けない場合があります。
(引用:岡三証券「FAQ」)
*当選するのは原則1単元ですが、取引手数料を基準とした「優遇ステージ抽選」では複数単元が当選する事があります。この時に、たとえば2単元当選していて1単元しか購入申込を行わなければ、ペナルティの対象となります。
岡三証券も「~~受付けない場合があります」という少し弱めの表現となっていますね。この事について問い合わせてみたところ、三菱UFJモルガン・スタンレー証券と同様に断定的な表現での回答がありました。
そのため、岡三証券についても購入辞退等を行えば、ペナルティを受けると考えておきましょう。
なお、岡三証券では電話でのIPO申込に限って補欠当選が発生し、補欠当選者には事前にコールセンターから購入意思の確認が行われます。その際に購入意思を示したにも関わらず、購入手続きを行わなければ、補欠当選者に対してもペナルティが課されるので注意してください。
4社目:東洋証券
東洋証券が課すペナルティは以下の2点です。
- IPOの申込不可【1ヶ月間】
- 抽選待ちとなっているその他の申込中の銘柄も無効
東洋証券では、自社HPにて以下のようにペナルティの内容について記載しています。
「当選」されたお客さまにおいては、募集申込手続きを行われない場合には、当選辞退「キャンセル」扱いとなります。当選辞退「キャンセル」されたお客さまには当社規定による取引制限が課せられますのでご注意ください。
● 他の需要申告中の抽選待ち銘柄について全て無効となりますのでご注意ください。
● 1か月間、新規公開株の需要申告の受付が無効になる。(引用:東洋証券「ニュースリリース」)
「~~課せられます」「無効になる」と断定的な表現になっているので、当選後にキャンセルをすると必ずペナルティを受けると考えておきましょう。
なお、補欠当選時に申込をしなかった場合はペナルティの対象となりません。
ペナルティを受けてでもキャンセルすべき?
IPO当選後にキャンセルしたいと考える理由は、やはり「公募割れ」ですよね。
「当選したけど、損をするなら購入したくない・・・」
誰もがこのように考えるはずです。公募割れのリスクを回避するならキャンセルという決断になるでしょう。
しかし、ここまで紹介したように、「SMBC日興証券」「三菱UFJモルガン・スタンレー証券」「岡三証券」及び「東洋証券」ではキャンセルに対してペナルティが課されます。
そのため、ペナルティを受けてでもキャンセルすべきか否か、とジレンマに陥っている人もいるかもしれません。
そんな時は双方のリスクをもう少し具体化してみると決断しやすくなると思います。
ではそれぞれのリスクについて見ていきましょう。まずはキャンセルしなかった場合のリスク(公募割れのリスク)についてです。
IPOをキャンセルしなかった場合のリスク
キャンセルしなかった場合には、IPO銘柄を購入する事になります。初値売りを前提とすれば、この時に負うリスクは「公募割れ」です。
以下の3つの観点からこの公募割れリスクを具体化してみましょう。
- 損失額はどれくらいになるのか?
- 公募割れを起こす銘柄の割合は?
- キャンセルを検討しているIPO銘柄が公募割れを起こす可能性は?
■① 公募割れを起こした場合の損失額は?
実際に公募割れをした時にどれくらい損をするのか?という情報は、キャンセルを検討する上で重要な情報です。
そこで参考情報として、2016年から2018年8月1日時点までに公募割れを起こした25銘柄の平均初値騰落率及び1単位(100株)当たりの平均損失額を紹介します。
- 平均初値騰落率・・・-6.15%
- 1単位当たり平均損失額・・・12,492円
キャンセルを検討している銘柄がこれらの数値近辺におさまるとは限りませんが、目安として利用できると思うので参考にしてください。
■② 公募割れを起こす銘柄の割合は?
では次に公募割れを起こす可能性がどの程度あるのか、について見ていきましょう。まずは直近3年間のIPOにおいて公募割れが発生した件数・割合についてです(2018年8月1日時点)。
年 | 公募割れ件数 | 全体の件数 | 割合 |
---|---|---|---|
2018 | 2 | 45 | 4.44% |
2017 | 8 | 90 | 8.89% |
2016 | 15 | 83 | 18.07% |
IPO投資はローリスクと言われますが、このように毎年公募割れを起こす銘柄はあります。ここ3年間で発生した割合を平均すると約11%です。この数値が現状のIPO投資としての公募割れリスクと言えます。あくまで全体的な視点での数値です。
■③ キャンセルを検討しているIPO銘柄が公募割れを起こす可能性は?
続いて、個別銘柄視点での公募割れリスクについて見てみましょう。
過去に公募割れを起こしたIPO銘柄を分析してみると、いくつかの特徴が浮かび上がってきます。その特徴が以下の4つです。
- 公募・売出株数が1,000万株超
- 上場する市場が東証1部
- 仮条件が想定価格より低い設定
- 公開価格が仮条件の上限未満
実際に、IPOが好調な2018年において公募割れを起こした「信和株式会社(初値騰落率-3.83%)」は3つ、「キュービーネットホールディングス株式会社(初値騰落率-6%)」は2つ上記の特徴に該当しています。
項目 | 信和 | QBネット |
---|---|---|
公開株数 | 13,788,400株 | 11,253,700株 |
上場市場 | 東証2部 | 東証1部 |
想定価格 | 1,380円 | 2,250円 |
仮条件 | 1,150円~1,300円 | 2,000円~2,250円 |
公開価格 | 1,150円 | 2,250円 |
このようにキャンセルを検討しているIPO銘柄を上記特徴毎に分析し、数多く該当するならば公募割れリスクがかなり高いという判断をする事ができます。
なお、その他にも上場延期をしてIPOに再挑戦する銘柄や再上場する銘柄なども公募割れリスクが高くなります。上記4つの特徴に幾つかの項目を加えて、公募割れリスクを分析してみてくださいね。
このように、キャンセルしなかった場合の公募割れリスクについては「損失の概算額」と「損失が実現する可能性」について検討するようにしましょう。
IPOをキャンセルしてペナルティを受けた場合のリスク
「IPOキャンセルをした場合のリスク」は「抽選参加機会を失う事」です。ペナルティを課すかどうか曖昧な表現をしている証券会社もありましたが、キャンセルすれば必ず発生すると考えておいたほうが良いです。
しかも単に抽選参加機会を失うのではなく、業界内でもトップクラスのIPO取り扱い実績を誇る証券会社からIPOに参加する機会を喪失する」ことになります。
以下の表は、IPOのキャンセルに対してペナルティを課す証券会社3社の主幹事・幹事実績を表したものです。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券 | SMBC日興証券 | 岡三証券 | |
---|---|---|---|
2018年 | 主幹事6件 (業界6位) 幹事24件 (業界12位) | 主幹事22件 (業界2位) 幹事68件 (業界3位) | 主幹事1件 (業界7位) 幹事47件 (業界5位) |
2017年 | 主幹事6件 (業界6位) 幹事29件 (業界11位) | 主幹事12件 (業界4位) 幹事71件 (業界2位) | 主幹事4件 (業界1位) 幹事35件 (業界9位) |
2016年 | 主幹事3件 (業界7位) 幹事20件 (業界11位) | 主幹事13件 (業界4位) 幹事64件 (業界2位) | 主幹事0件 幹事29件 (業界9位) |
3社とも、主幹事及び幹事を務める回数が多いことが分かります。ペナルティを受ければ、それだけ多くの抽選機会を失う事になります。特にIPOに挑戦するときは主幹事証券会社から申し込むということは勝率を上げる定石ですので、それを失うのはけっこうツライです。
ただし、ペナルティを受ける期間はキャンセルをした日から1ヶ月間です(岡三証券以外)。その間にブックビルディングが行われるIPO銘柄はすでにほぼ公表されています。また、新たに上場承認される銘柄が出てきても、ブックビルディングが開始されるのはペナルティが空けてからとなるでしょう。
つまり、ペナルティ期間中に当該証券会社が幹事を務めるかどうかを前もって把握する事ができます。仮に幹事を務める銘柄がなければ、ペナルティについて悩む必要は一切無いという事になります。
また、幹事を務める銘柄が有ったとしても、当選するという保証はどこにもありません。たとえ主幹事だったとしてもです。
「ペナルティが課される」と言われると、凄く損をした気分になる人もいると思いますが、抽選機会を失うだけであって、実際には何も損をしないという事は理解しておきましょう。
なお、東洋証券ではオンライントレードで抽選に参加できるのが「主幹事の時のみ」となっています。主幹事を務めるのは2、3年に1回ぐらいのペースなので、ペナルティを気にする必要は無いでしょう。
さて、ここまで「キャンセルしなかった場合のリスク」と「キャンセルした場合のリスク」について考察してきました。
簡単にまとめると、「損失を被る可能性がある公募割れリスク」を取るか「IPO抽選に参加する機会を失うリスク」を取るか、という判断になります。
最終的な判断は個々人でしていただきたいところですが、両リスクを天秤にかけて、自分自身にとって一番良いと思われる決断をしてくださいね!
ペナルティのない証券会社~ただしSBI証券は注意が必要~
前述した3社以外の証券会社は、基本的にペナルティが無いと考えて良いでしょう。以下に例示するような有名どころの証券会社はペナルティ無しです。
- SBI証券
- 野村證券
- みずほ証券
- 大和証券
- 東海東京証券 など
これらの証券会社では、購入を辞退をしてもペナルティを課せられる事はありません。
ただし、SBI証券でIPOチャレンジポイントを使用してブックビルディングに参加している場合は注意が必要です。なぜなら購入辞退(購入申込忘れも含む)をするとポイントが消失してしまうからです。
- 当選者が購入辞退をした場合
- 補欠当選者が購入辞退をした場合
補欠当選の場合も購入辞退をすればポイントが消失してしまうので、繰上当選が期待できなくても購入手続きを済ませるようにしましょう。
【参考】ペナルティはなくても今後当選しにくくなったりしないの?
「ペナルティが無くても、取引履歴とかのデータを分析してこっそりブラックリストに入れてたりするんじゃないの~?」
「いわゆる”裏ペナルティ”があるんじゃない?」
そんな疑念を抱かれた方もいらっしゃるのではと思います。一部サイトではそんな噂がまことしやかに囁かれていることもありますよね。
確かに、証券会社にとってあまり好ましくないキャンセル行為に「ペナルティを何も課さない」という事はにわかには信じがたいです。
そこで、裏ペナルティに関してSBI証券とマネックス証券に直接問い合わせてみました。以下がその回答内容です(2社とも同じ回答だったので1つにまとめています)。
「そういう風に答えるのは当然だよね」という穿った見方もできますが、ひとまず”裏ペナルティ”の存在を明確に否定していることは安心材料になると思います。
また、IPO抽選はコンピュータープログラムによる無作為抽選なので、人為的な操作や意図が介在する可能性が低いことを踏まえると、より安心できるのではないでしょうか。
後期型の証券会社はそもそもキャンセル不可
後期型の証券会社では、購入申込後に抽選が行われるというIPOスケジュールのため、そもそも当選後のキャンセル(購入辞退)という概念がありません。つまり、当選後のキャンセルは出来ない、という事です。
「後期型証券会社ってどこだったっけ?」
そう記憶を辿っている方のために、後期型証券会社を以下に紹介しておきますね。
- 岩井コスモ証券
- GMOクリック証券
- カブドットコム証券
- 楽天証券
これらの証券会社からIPOに参加する時は、遅くても購入申込期間中に投資をストップする判断をするようにしてくださいね。
なお、後期型証券会社の詳細について知りたい方は以下記事にまとめていますのでご参照ください。
判断は慎重に!購入申込・辞退は基本的に1回のみ
証券会社にもよりますが、購入申込又は辞退の意思表示は、基本的に取消や訂正ができません。つまり、1度のみです。そのため、ペナルティの有無に関わらず、慎重に判断するようにしてください。
考えてみれば、購入申込(辞退)の意思表示後に補欠として控えている補欠当選組へ割り振られるので、取消や訂正ができないという点は妥当ですね。
なお、ブックビルディング(需要申告)であれば多くの証券会社はBB期間中であれば取消を受け付けてくれます。ただし、「訂正」を行いたい場合は、いちど「取消」を行ってから再度ブックビルディングを行うという手順を踏む必要があります。
まとめ~IPOをキャンセル(購入辞退)する場合は「ペナルティ」と「公募割れ」のリスクを天秤にかけて最善の判断を行おう!~
今回は、当選したIPOのキャンセル(購入辞退)の際にペナルティを課す証券会社やリスクについてご紹介しました。
当たりにくいIPOだからといって、IPOの取扱件数がトップクラスの証券会社から申し込めなくなるのは、そこそこの痛手ですよね。かといって、「損失につながるかもしれないリスクを取りに行くのも・・・」と葛藤してしまいます。
キャンセルした場合/しなかった場合の両方のリスクを踏まえて最善の選択を行いましょう。
最後に、わりとありがちな「うっかり購入申込を忘れちゃって辞退扱いにされた・・・」なんてことにも気を付けてくださいね!