突然ですが、IPO銘柄を分析する際に公開株数の内訳をチェックしていますか?公開株数やそれに関連した吸収金額やオファリングレシオなどはチェックしても、公開株数の内訳についてはスルーしている人もいるかもしれません。
公開株数の内訳とは「公募株数」と「売出株数(オーバーアロットメント分を含む)」の事です。
実はこの公募株数と売出株数がどのような割合で構成されているかによって、IPOの人気に差が出てくるんです。そのため、IPO銘柄を分析する際には、公募株数と売出株数の割合もチェックしておくべきでしょう。分析精度を高める事ができますからね。
そこで今回は、過去データを参考にIPOで人気が出やすい、また不人気になりやすい公募株数・売出株数の割合について紹介したいと思います。なお、公募株や売出株の違いがよく分からない人もいると思うので、先に両者の違いについて説明しておきたいと思います。
公募株と売出株の違い
まず公募株と売出株それぞれの定義から見ていきましょう。
- 公募株とは:新株を発行して投資家に買ってもらう株式
- 売出株とは:既存株主が保有する株式を投資家に買ってもらう株式
さて両者の違いについてですが、それはIPOで調達した資金を誰が得るのかという点です。
- 公募株⇒新規上場企業
- 売出株⇒既存株主
IPOで調達された資金のうち、公募分の資金は新規上場会社が獲得します。その資金は設備投資や財務体質の改善など、会社をより大きくするため又はより良くするために使われます。簡単に言ってしまうと“これから”の為の資金と言えます。
一方、売出分の資金は売出株の放出元である既存株主が獲得します。基本的に創業者等の利益獲得やベンチャーキャピタルの投資資金の回収が目的です。つまり、“これまで”の為の資金と言えます。
そのため、公募株と売出株に対して投資家が抱くイメージは以下のようになります。
- 公募株:株価成長に繋がる(初値にとってプラス要素)
- 売出株:株価成長には繋がらない(初値にとってマイナス要素)
このように公募株と売出株には、資金を得る者や投資家が抱くイメージに大きな違いがあるんですね。
どうですか?公募株と売出株の違いについて理解できたでしょうか?
IPOの評価指標としての話に入る前に、一旦ここまでの内容をざっくりまとめておきますね。
資金獲得者 | 初値への影響 | |
---|---|---|
公募株 | 新規上場会社 | プラス |
売出株 | 既存株主 | マイナス |
IPOの評価指標「公募株数・売出株数の割合」
それでは、IPOの評価指標としての「公募株数・売出株数の割合」について見ていきましょう。
公開株数の内訳である「公募株数と売出株数の割合」と「初値」には以下のような関係性があります。
- 公募株数の割合が高いと初値は高騰しやすい
- 売出株数の割合が高いと初値は伸びにくい
前述の公募株と売出株に対して投資家が抱いているイメージからも分かるように、投資家がより成長するだろうと期待するのは公募株数が多いIPOです。
IPOで調達した資金の多くが会社に流入し、事業へと注ぎ込まれますからね。成長の為のIPOだと捉えられ、購入を希望する投資家が多くなり、初値が高騰しやすくなります。
一方、売出株数が多いIPOは、調達した資金のほとんどが既存株主に流れるので、上場ゴール感が漂います。IPOが通過点ではなく終着点かもしれない会社に投資する気は起こりませんよね?そのため、売出株数の多いIPOは初値が伸びにくくなるんです。
では、実際に過去のIPOにおいてはどうだったのか見ていきましょう。
「公募株数・売出株数の割合」と「初値」との関係
以下の表は、2016年~2018年のIPO銘柄を公募株数の割合を基準に区分して、各区分毎のIPO件数、平均初値騰落率及び公募割れ件数を表したものです。
公募株数の割合 | 件数 | 平均初値騰落率 | 公募割れ |
---|---|---|---|
0% | 13件 | 1.65% | 9件 |
0%超20%以下 | 28件 | 53.91% | 6件 |
20%超40%以下 | 36件 | 81.33% | 6件 |
40%超60%以下 | 97件 | 104.84% | 5件 |
60%超80%以下 | 54件 | 124.06% | 3件 |
80%超100%以下 | 35件 | 118.64% | 3件 |
さきほど紹介した関係性がデータにもしっかりと現れている事が分かります。
公募株数の割合が0%、つまり売出株数の割合が100%のIPOでは、平均初値騰落率がたったの1.65%しかありません。13件中9件が公募割れをしているので、それだけ不人気なIPOだったという事が分かります。
ちなみに、公募割れの多い再上場のIPOは「公募株数:売出株数=0:100」という割合になる事が多い点は覚えておきましょう。
そして、公募株数の割合が高くなるにつれて平均初値騰落率も上昇していきます。公募株数の割合が40%を超えてくると平均初値騰落率も100%を超えてきます。人気IPOだけ投資していきたい!という人は、公募株数の割合が40%又は60%がボーダーとなってくるでしょう。
過去のデータでも示されているように、「公募株数・売出株数の割合」と「初値」には上記のような関係性があるので、IPOの評価・分析をする際の参考にしてくださいね。
なお、公募株数の割合が高くても公募割れとなってしまうIPOはあります。そのため、公募株数・売出株数の割合だけでIPOを評価するのではなく、吸収金額やオファリングレシオなどその他の指標もチェックして総合的に判断するようにしましょう。
まとめ
今回はIPO評価指標の1つ「公募株数と売出株数の割合」について紹介しました。
公募株数の割合が高いのか、それとも売出株数の割合が高いのか、こうした事をチェックすることでIPO分析の精度は今までよりも高くなります。チェックしていなかった・・・という人は、次回のIPOからチェックしてみてくださいね。
なお、IPOの分析の精度が高まったとしても、抽選に当選しなかれば利益を得る事はできません。以下の記事に抽選のコツをまとめているので、こちらの記事も併せてチェックしておきましょう。