「REIT(リート)のIPOに参加しようかどうか迷っている・・・」
「株式のIPOと同じように考えてブックビルディングに参加すれば良いの?」
IPOはIPOでも「REIT(リート)のIPO」となると、投資スタンスについて悩んでしまうのでないでしょうか?もしかしたら株式のIPOと同じような感覚で、ブックビルディングに参加してしまっている人もいるかもしれません。
投資家から資金を集め、様々な不動産を購入。そこから得た賃貸収入や売却益を投資家に分配する仕組みとなっています。
結論を先に書くと、「REITのIPO」と「株式のIPO」は全くの別物として考える必要があります。同じ考えで投資判断をすると、「損をしてしまった・・・」という事になり兼ねません。
実際に、2019年(4月1日時点)のそれぞれの初値売りにおけるIPO結果を見れば一目瞭然です。
- REITのIPO・・・0勝2敗(勝率:0%)
- 株式のIPO・・・20勝1敗(勝率:95.2%)
このデータだけでもREITのIPOは注意深く考えないといけない事が分かりますよね。
という事で今回は、過去のREIT(リート)銘柄のIPO結果を一覧で振り返ると共に、そこから見えてくるREITのIPOの投資スタンスの考え方について紹介していきたいと思います。
【2019年】REIT(リート)IPOの結果一覧
まずは、2019年のREITのIPO結果を見てみましょう(4月1日時点)。
上場日 | 銘柄名 | 公開価格 | 初値 | 初値騰落率 |
---|---|---|---|---|
3/12 | サンケイリアルエステート投資法人 | 100,000 | 97,000 | -3.00% |
2/13 | エスコンジャパンリート投資法人 | 101,000 | 97,200 | -3.76% |
2019年はこれまで2件のREITが上場。そして、2件とも公募割れを起こしています。戦績は0勝2敗です。
初値売りで利益を獲得できた銘柄は、現時点までは0という厳しい結果になっています。
【2018年】REIT IPOの結果一覧
続いて、2018年のREITのIPO結果も見てみましょう。
上場日 | 銘柄名 | 公募価格 | 初値 | 初値騰落率 |
---|---|---|---|---|
9/7 | 伊藤忠アドバンス ロジスティクス投資法人 | 103,000 | 99,300 | -3.59% |
7/27 | タカラレーベン 不動産投資法人 | 96,000 | 92,000 | -4.17% |
2/15 | ザイマックス リート投資法人 | 105,000 | 104,000 | -0.95% |
2/7 | CREロジスティクスファンド 投資法人 | 110,000 | 104,500 | -5.00% |
2018年は4件のREITが上場。その全てが公募割れを起こしています。戦績は0勝4敗。
2018年も2019年と同様にREIT IPOは厳しい結果になっている事が分かります。ついでに2017年以前のデータも見ておきましょうか。
【2017年以前】REIT IPO一覧
こちらが過去にIPOをしたREITの結果一覧表です。2014年~2017年の4年間に絞って紹介しています。4年間で上場したREITは20件です(2018年及び2019年分も含めると26件になります。)
上場日 | 銘柄名 | 公募価格 | 初値 | 初値騰落率 |
---|---|---|---|---|
2017年 9/14 | 三菱地所物流 リート投資法人 | 260,000 | 274,000 | 5.38% |
2017年 2/7 | 森トラスト・ホテル リート投資法人 | 143,000 | 145,000 | 1.40% |
2016年 12/16 | 投資法人みらい | 183,000 | 176,000 | -3.83% |
2016年 9/8 | さくら総合 リート投資法人 | 91,000 | 79,000 | -13.19% |
2016年 8/31 | 大江戸温泉 リート投資法人 | 93,000 | 89,200 | -4.09% |
2016年 8/2 | 三井不動産ロジスティクス パーク投資法人 | 270,000 | 271,400 | 0.52% |
2016年 7/29 | マリモ地方創生 リート投資法人 | 92,000 | 88,500 | -3.80% |
2016年 4/20 | スターアジア 不動産投資法人 | 100,000 | 99,100 | -0.90% |
2016年 2/17 | ラサールロジポート 投資法人 | 100,000 | 105,000 | 5.00% |
2015年 11/30 | いちごホテル リート投資法人 | 106,000 | 104,100 | -1.79% |
2015年 7/29 | ジャパン・シニア リビング投資法人 | 190,000 | 170,000 | -10.53% |
2015年 6/30 | サムティ・レジデンシャル 投資法人 | 102,000 | 99,000 | -2.94% |
2015年 3/19 | ヘルスケア&メディカル 投資法人 | 110,000 | 170,000 | 54.55% |
2015年 2/10 | ケネディクス商業 リート投資法人 | 230,000 | 260,500 | 13.26% |
2014年 12/3 | 積水ハウス リート投資法人 | 110,000 | 135,000 | 22.73% |
2014年 11/27 | トーセイリート 投資法人 | 103,000 | 115,000 | 11.65% |
2014年 11/5 | 日本ヘルスケア 投資法人 | 150,000 | 222,200 | 48.13% |
2014年 6/5 | インベスコ・オフィス ジェイリート投資法人 | 103,000 | 108,900 | 5.73% |
2014年 4/24 | 日本リート投資法人 | 252,000 | 262,000 | 3.97% |
2014年 2/7 | ヒューリック リート投資法人 | 108,000 | 122,000 | 12.96% |
これらのIPO結果をざっとまとめると以下の通りです(2018年・2019年分も含む)。
- IPOの戦績・・・12勝14敗
- 勝率・・・46.2%
- 初値騰落率(最高)・・・54.55%
- 初値騰落率(最低)・・・-13.19%
- 初値騰落率(平均)・・・4.89%
では、これらのデータを踏まえて、REITのIPOに対する投資スタンスの考え方について触れていきたいと思います。
REITのIPO投資の基本的な考え方
突然ですが「IPO投資といえば?」と質問されると、あなたはどのように答えるでしょうか?
「勝率がもの凄く高い」
「初値売りをすれば大きな利益を得られる」
様々な回答が有るとは思いますが、上記2つのような回答をする人が多いと思います。
しかし、さきほど紹介したREITのIPO結果を見ると、勝率も低く、初値騰落率もイマイチでしたよね。
つまり、(冒頭でも書きましたが)IPO投資と言っても「REIT」と「株式」は全くの別物と考えおく必要があります。株式と同じ感覚でブックビルディングに参加すると損をしてしまう可能性が高いです。
そのため、初値売りを前提とするならば、REITのブックビルディングの申し込みは慎重に判断する必要があります。なんなら全部スルーという思い切った判断もアリです。
ただ、そんなREITのIPOでも勝ちを拾っていきたい!という人もいますよね。そこで、次のセクションではIPOで勝てるREITを見極めるポイントについて見ていきたいと思います。
【知っ得】IPOで「勝てるREIT」と「勝てないREIT」を見極めるポイント
IPOで「勝てるREIT」を見極めるポイントは「信用格付」です。
信用格付とは、法人の債務履行能力、または個別債務(社債、ローン、CPなど)の履行確実性を等級で表示したものです。
(引用:株式会社日本格付研究所(JCR))
この信用格付が「AA以上」である事がIPOで勝てるREIT銘柄の特徴となります。
過去5年間のREIT案件で、上場時に信用格付がAA以上だった銘柄は以下の4名柄です。
銘柄 | 騰落率 | 信用格付 (JCR) |
---|---|---|
三菱地所物流 リート投資法人 | 5.38% | AA- |
三井不動産ロジスティクス パーク投資法人 | 0.52% | AA- |
ラサールロジポート 投資法人 | 5.00% | AA- |
積水ハウス リート投資法人 | 22.73% | AA- |
REITのIPO件数自体が少ないのでサンプル数としては疑問が残りますが、勝率が低いREITのIPOにおいて、勝率100%という数値は注目すべきポイントになると思います。
ちなみに「信用格付A以下」及び「信用格付なし」の勝ち負けは以下のようになります(上場時に信用格付を取得する義務はありません)。
- 信用格付A以下・・・2勝1敗(いずれもA)
- 信用格付なし・・・6勝11敗
信用格付がREITのIPOに好影響を与える理由は、もちろん「AA=債務履行の確実性は非常に高い」だからという事もありますが、それよりも日銀の買い入れ対象となる基準が「AA格相当以上」となっているからです。つまり、将来において大きな買い支えがあるため、上場時から安心して買いを入れる投資家が多くなるんですね。
そうした事から信用格付がAA以上のREIT案件は狙い目となってくるでしょう。
ただし、信用格付だけで投資判断をするのはややリスキーな面があるので、以下に紹介する項目もチェックするようにしてくださいね。
その他チェックしておきたいポイント
信用格付以外にREITのIPOでチェックしておきたい項目は以下の4つです。
- ポートフォリオ
- スポンサー
- 利回り
- 東証リート指数
1つずつ見ていきますね。
ポートフォリオ
ポートフォリオとは、REITが保有している不動産(取得予定の不動産)の一覧情報を指します。どのような用途の不動産でポートフォリオが構築されているのかはREITによって異なります。
そこで、まずはおおまかなポートフォリオのタイプをチェックしましょう。
- 特化型REIT・・・1つの用途の不動産に重点投資するREIT
- 複合型REIT・・・2つの用途を組み合わせて投資するREIT
- 総合型REIT・・・3つ以上の用途に分散投資するREIT
一般的に、多くの用途の不動産に分散投資した方が景気変動などに強いポートフォリオを構築する事ができます。
ただ、IPOにおいては今まで投資対象になっていなかった用途に投資する特化型REITが人気を集める傾向にあります。
たとえば、2014年11月5日に上場した「日本ヘルスケア投資法人」です。有料老人ホームなどのヘルスケア施設に特化したREITとしては初の上場でした。IPOの結果は+48.13%と、REITとしては珍しく高騰した銘柄です。
そのため、REITをチェックする際は、どのような不動産でポートフォリオが構築されているのかをチェックするようにしましょう。
ただし、初物のREITでも公募割れを起こす事もあります。大江戸温泉リート投資法人が良い例です。温泉施設を投資対象とする初めてのREITでしたが、IPOでは-4.09%という結果でした(ホテル・リゾート関連のREITは以前にもあったのでその辺が影響した可能性もあります)。
なので、REITのIPO投資をする際は、ポートフォリオ以外の項目もチェックして総合的に判断するようにしてください。
東証REIT指数
東証REIT指数とは、東証市場に上場するREITの全銘柄を対象とした浮動株ベースの時価総額加重型の株価指数です。この指数を見ることによって、REIT市場全体の時価総額の増減を把握する事ができます。
たとえば、2014年1月から2018年9月までの東証REIT指数を表したグラフがこちらです。
(出典:東京証券取引所)
2014年から2015年にかけて一気に上昇し、その後は上昇・下降を繰り返すグラフとなっています。ちなみに、2014年後半に一気に上昇した理由は、日銀が金融緩和の追加策の中でREITの買い入れ額を3倍(300億円から900億円)に増額した事がきっかけです。
さて、REITのIPO投資をする際は、簡単にいうとREIT指数が「上昇傾向なら初値にはプラス要因」「下降傾向なら初値にはマイナス要因」という感じで参考にしてみましょう。
実際、REIT指数が急上昇した2014年に上場したREIT銘柄は6件全てが初値騰落率がプラスとなっています。
ただし、注意して欲しいのはREIT指数が上昇傾向にあるからといって、必ずIPOで勝てるというわけではありません。2018年の東証REIT指数は緩やかに上昇していますが、全て公募割れという結果になっています。
そのため、東証REIT指数はあくまで参考指標の1つとして考えておいてください。ただ2014年のような大きな上昇トレンドが訪れた時には強気に出ても良いかもしれませんね。
スポンサー
スポンサーは、REITの仕組み上、最も重要な存在です。というのも、REIT自体は資金を調達するための窓口に過ぎず、取得する不動産の決定や取得した不動産の運用は資産運用会社が行います。
そして、この資産運用会社に出資しているのがスポンサー企業なんです。
- 三菱地所物流リート投資法人のスポンサー・・・三菱地所
- 三井不動産ロジスティクスパーク投資法人のスポンサー・・・三井不動産
- 積水ハウスリート投資法人のスポンサー・・・積水ハウス
スポンサーは出資するだけでなく、会社の運営や人材の提供なども行います。また、REIT設立時・上場後に取得する不動産の提供を行うのもスポンサーです(その他の会社から不動産を取得する事もあります)。
そのため、REITが質の良い不動産を取得し、それを効率良く運用できるかは”スポンサー次第”と言っても過言ではないんです。また、スポンサーの実績・信用力が高ければ、REIT自体の信用格付も得やすく、資金調達等の面でも優位に立てます。
なので、REITに投資する際は、スポンサーがどこなのかという点をチェックするようにしましょう。
NOI利回り
REITの収益性を表す指標が「NOI利回り」です。NOIとは、Net Operating Incomeの略称で、不動産の年間賃料収入から経費を差し引いた純収益の事を指します(経費に減価償却費は含みません)。
そしてNOI利回りは、NOIを不動産取得価格(又は時価)で割る事によって求められます。上場時は不動産の取得予定価格が用いられる事が多いです。
各不動産及び平均のNOI利回りは、目論見書のポートフォリオ概要に記載されているのでチェックしておきましょう。
ただし、地方の不動産を所有するREITでは、首都圏に比べて取得価格が安くなるので、NOI利回りが高くなりやすい傾向があります。そのため、単純にNOI利回りをチェックするのではなく、同用途・同立地の不動産を所有している他のREITとも比較するようにしましょう。
ここまでREIT特有の上場時にチェックしておきたい項目をいくつか紹介してきました。以上のことを参考にREIT銘柄の分析を行ってみてくださいね。
ただし、注意して欲しいのは「REITのIPOは勝率が低い!」という点です。この点は忘れないようにしてください。
なお、株式のIPOと同様に「想定価格」「仮条件」「公募価格」の関係性もチェックしておきましょう。たださきほども書いたように、REITのIPOはなかなか勝てないので、「想定価格<仮条件の下限」かつ「仮条件の上限=公募価格」となる強気な設定の銘柄に絞った方が良いでしょう。
「想定価格=仮条件の下限」となるやや強気な銘柄については、直近のREITのIPO結果を考慮して判断しましょう。
【参考】そもそもREIT(リート)とは?
REITはもともとアメリカで誕生した金融商品で、日本においては2001年9月に市場が創設されました。日本のREITのことを「J-REIT」と言い表す場合もあります。
冒頭で紹介したように、REITとは「不動産投資信託」のことです。投資家から資金を集め、様々な不動産を購入。そこから得た賃貸収入や売却益を投資家に分配する仕組みとなっています。
(出典:日本信託協会)
こうした仕組みを取ることによって、不動産を証券化して資金を調達しているのがREITなんですね。
投資家としても、小口での不動産投資が可能になったのは嬉しいポイントでしょう。また、「分配金によるインカムゲイン」と「市場での売買によるキャピタルゲイン」の両方を狙えるので、株式投資に似た感覚で投資する事ができます。
REITのメリットやリスクについて気になる方は「一般社団法人 投資信託協会」をご覧ください。
なお、REITは不動産を投資対象にした投資信託ですが、これとは別にインフラを投資対象とした「インフラファンド」というものがあります。数は少ないですが、新規上場する事があるので、併せてチェックしておきましょう。
まとめ~REIT(リート)のIPOは慎重な投資判断が必要~
REITのIPOは、過去の結果を見る限り、株式のIPOのように十中八九勝てる案件ではありません。直近5年間の勝率は5割でした。しかも騰落率も低い・・・。そのため、REITのIPOへの参加を検討している人は、より慎重になって投資判断を下す必要があります。
今回紹介した「勝てるREIT」と「勝てないREIT」を見極めるポイントを参考にして、REITのIPO投資スタンスを決定してみてくださいね。
ちなみに、REITは吸収金額が大きいので、株式のIPOと比べると当選しやすくなっています。勝てる銘柄を見つけた時のために、REIT案件で主幹事を務める事が多い「SMBC日興証券」や「大和証券」の口座は開設しておきましょう。